レヴィンというひと

レヴィンの心理学に対する熱望は心理学が真の科学になることであった。そうするためには心理学的概念の形式的体系とそれに対応する定義を発展させることが必要であり、また、全体として、心理学の経験的事実を適切に取り扱えるような法則を開発する必要があると彼は確信していた。そして数学、とくに「空間」の抽象的概念を扱う専門分野は、心理学の理論を考えようとするものにとっては欠くことのできない道具を提供してくれるものと信じていた。

ドイッチュは「心理学に幾何学のひとつを応用しようというレヴィンの創造性の強い企図の暗示的な価値を無視してしまうのは愚かなことだろう。レヴィンは物的科学のために発達してきた数学の公理とは違った公理を基にして作られた新しい数学が必要なことを指摘した。彼は、心理的空間をあつかうのに適した幾何学を用いて解明されるような性質をいくつか示唆しており、また、そのような幾何学を発達させるために皆がもっと興味を持つことを進めているのだ」と言っている。

カートライトは(中略)こんな事を言っている。「レヴィンの数学に対する態度には強い相反感情の対立が見られる。すなわち数学の持っている厳密さには惹かれるのだが、彼のいわゆる『未熟な形式化』に対しては恐れを持っていたのである。彼は、数学を用いるのが便利だからと言って、数学でなければ心理学の理論の真意を伝えないとは考えたくなかった。(中略)彼は自分のトポロジーの使い方が、数学の立場からみれば全く素朴な形のものであると言うことには十分気づいていたが、そうした批判はおそれていなかった。彼は、やがては彼の思うところが現実化されるようになることを確信していた。」

フェスティンジャーは言っている。「私たちは統計についてはずいぶん早くから論じ始めていました。彼(レヴィン)が統計学を好かなかったのは、統計学が彼にとってどんな役に立ちうるかについて彼の側に誤解があったからだと思います。彼は統計を、体系的な理論無しに集めることのできるデータと同一視していたようですし、また、個別の事例は統計的分析によってその特徴を失ってしまう者と感じていたようです。」

いずれも『クルト・レヴィン』望月・宇津木(訳)より。
ついでにウィキペディアからだが、少し引用。

位相空間(いそうくうかん、topological space)とは、数学において、集合に要素どうしの近さや繋がり方に関する情報(位相、topology)を付け加えたものである。この情報は関数の連続性や点列の収束といった概念の源といえる。ある集合に位相を与えて位相空間とみなすことを、しばしば「位相を入れる」という。