イイかどうかは自分で決める

先日トルコでおみやげを買ったのだけど,その後「価値ってなんだろう」と同僚と話した。

値札がついてないところで値段の交渉をすると、価値ってなんだろうって誰しも考えるよね。でもそれは、価値は客観的で普遍的、世界のどこに行っても変わらない、という信念を持っているからにすぎない。その考えを突き詰めると、あるブランドの名の下に多くのバリエーションを集めるマクドナルドやUNIQLOに行き着く。或いはAKB48もそう。

その対局には、同じものが世界に二つと無い(例えばトルコ絨毯のような)物に、全く個人的な価値観で判断するというのがある。それがトルコやエジプトで経験した交渉型の値段設定。

面白いのは、交渉する時に、売り手が「あなたにはあなたの価値観がある。あなたの懐事情がある。だから買っても買わなくても良い。あなたが気に入って選んだものは、世界一のベストチョイスなんだ」と言ってくるところ。これが彼らの世界観なのだね。

これはマクドナルド化された世界にはないもの。価値はわからないだろうから,こちらで一元的に,統一的に決めてあげる。悪いようにはしないから,という信用でもって成立する。それはそれでいいことなのかもしれない。

例えば,昔大阪は日本橋の電気屋街では,「値切る」ことが重要だった。値札がついている商品を指さして,店員に「これナンボになりますか」と聞くところから始まる。そこで勉強してくれるお兄さんはいい人なので,次に買い物に行ったときもその人を目指していく。それがリピーターを産む原理だった。
ところがヨドバシカメラが大阪梅田駅に出来たとき,このルールが通じなかった。値切れない。減額分はポイント還元。ポイントがリピーターを産む仕組みになっている。グローバル化を肌で感じた瞬間だった。

電気屋で働いていた友人が言った。このやり方はフェアだから,もうこれで良いんじゃないかと。値切る能力がある人とない人とで,同じ商品の値段が違うのは,やっぱりオカシイよと。

一理あるな,と思った。
そして,今やそのやり方がいろいろなところで蔓延している。つまり,今の日本社会ではこの方が適応的な売り方なのだ。

さてこの話,大学教育にも当てはめて考えてみたい。

高校までの教育と違って,大学には「正解」がない。大学で行われている講義は,俺はこのように考えるがお前らはどうだ,という話であって,単一の答えを出すためのものではない。
この教員はマガイ物(パチモン)ではないか?本当のことを言っているのか?という真贋を見定める目が必要になる。大学とは学生が学生の価値観を磨いていく場であるべきなのだ。

学生には、自分の価値観を持ってもらいたいのです。世界に正解なんかない。不変の値段なんかない。
だから、教員の顔色を見るとか、質問して答えを期待するとかはやめて欲しい。いろんな商品を見て、自分で価値を決める。いろんな人間や学問を知って、自分の理論を作る。そしてそれは世界一のベスト理論。
それが怖い、いやだというなら、学問をやめて消費者になることですな。本質的に、学問は消費できないんだよ。

教育学部につとめていて,恐ろしいなと思うのは,教育の質を保証すると言うところだ。あるいは教員免許を全員が持てるように,教員採用試験をみんなが受けて,受かるように,指導していくという。学士力保障と同じように,学習の記録をトレースできるように蓄積していき,四年間ちゃんと単位を取れば,ちゃんと学習できている保障の足跡が残っているとすることだ。
これは画一化された商品を作ることと同じだ。あたかも工業製品を作るかのように,PDCAサイクルが重要だとかいう。
そんな商品が現場に流れたとき,個性的な子供を育てることが出来るのか?出来るはずはない。恐ろしいのは,それのどこが悪いの?という考え方にまでなっちゃってるところだ。

思考のベースに,「失敗したくない」というのがあるのだ。安全志向。
それは後ろ向きの姿勢だ。リスクを見積もって,リスクとベネフィットを天秤にのせて,勝てそうなほうに張る,という批判的思考を許さない考えだ。

失敗したくない,という志向性は,同時に学業的な成績が優秀な人間がいることが往々にしてある。
しかし,意欲はないけれども成績が優秀だ,という人間よりは,意欲はあるけれども成績は残念だ,という人間の方が俺は好きだし,指導しがいがあるのは圧倒的に後者だ。というか,前者は研究指導出来ないといっても過言ではない。正解を探しに来られても,俺の中にもそれはない。ある可能性は,本人の中だけのハズだ。

学部在学中に,それを見つけて社会に出て行って欲しい。それが見つからない人は,大学院に進学してはいけない。時間と金の無駄になるから。

ピカソもダヴィンチも,イイかどうかは自分で決める(byモダンチョキチョキズ

学生には,アメリカやヨーロッパよりも,イスラム圏の文化を肌で感じてもらいたいなぁ。怪しさ抜群で,自分の価値観について考えさせられるよ。