「若者殺しの時代」と生きたシステムの設計

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

若者殺しの時代 (講談社現代新書)を読んだ。若者論,時代論としてかなり面白い良本。オススメの逸品です。
著者のホリイ氏は週刊文春で連載「ホリイのずんずん調査」でも有名で,本書もそこの調査データを一部,再編して用いているそうだ。
この調査,社会心理学の業界で言う「社会調査」とは違う。どちらかというと,社会学的。面白い切り口からデータを持ってきて議論するスタイル。

例えばラブホテルの歴史的変遷を論じた「愛の空間 (角川選書)」のようなアプローチ。本書にも,若者の恋愛事情の変遷を雑誌記事やその見出しなどから探っているので面白い。

基本的なテーマは若者。「未熟な大人」から「若者」という消費者層の形成。今の時代は団塊の世代が作った右肩上がりの成長をもとにしたシステムであり,このシステムが80年代に消費者層としての「若者」を発見,形成し,取り込んだ,と。90年代はそれに引きずられ,今もそのシステムを何とか延命させようと社会中が躍起になっている,という見方は,90年代前半に大学生=若者になって,バブルの残り香しか嗅いだことのない私も,非常に共感できる。
それから比べると,今大学生をやっている最中の世代は,上の世代から「もっと楽しめよ」とよくわからない雰囲気を強制され,かわいそうっちゃぁかわいそうだよな。生まれてこの方,好景気という時代を知らないのだから。

この本の評としては,Chikirin氏のブログにもいくつかある(例えばこれとかこれとか)ので,参考にしてみてください。

私が一番興味を持ったのは,最終章だ。それは,社会をシステムとしてとらえ,そのシステムの平均寿命についての考察だ。

日本が近代国家を始めたのが1868年。そのシステムをやめたのが1945年。これは78年もった。大敗戦後のシステムは1945年に始めて,さてどこまで延命できるだろうか。
早いとこ2015年。もって2030年だ。

と氏はいう。ちなみにエンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)でも日本というシステムがもう限界に来ているよ,と論じている。
そしてその感覚は,正しい。

ただ,例えば江戸時代は300年ぐらい続いたわけで*1,長生きするシステムの作り方が無いわけではない。
あるいは,うまく作ればもっとハッピーに死を迎えられるシステムだって,考えられるかもしれない。

そういう「長生きするシステム」のヒントは,安定しないこと,柔軟性と安定性のバランスが取れていること,にあるに違いない。
樹齢数百年の樹は,堅さと柔らかさをうまく使い分けて,時にはねじねじしながら,時には力強く踏ん張って,長生きしている。
支柱をたくさんいれてガチガチにした建物は,壊れにくいかもしれないが変更もきかない。機能的にうまくいかないことを構造が許さない。

生きたシステムを作るための,構造の設計はどうあるべきか。社会心理学者にとって,こういった視点から集団力学を捉え直していきたいと思うわけである。

*1:詳細に見ていくと一つの時代ではない,という意見も歴史家にはいわれそうだが。