日本心理学会二日目;再現可能性問題など

日本心理学会二日目。朝は再現可能性についてのシンポジウム。シンポジウムとかワークショップとか,色々な種類わけがなされているけど,フロアとの交流・討論をメインに置きたいというセッションのもくろみはすばらしいと思う。

方法論的な問題=統計的仮説検定の枠組みの限界,については別の所でも議論されている話で,今回はそれよりも「どうして追試がなされないのか」という問題について,学会の持っているシステマチックな特性や風土にウェイトがある感じ。

いわく,「価値がない(と思われている)」「余裕がない」「情報がない」「信用がない」などいくつかの問題点が指摘されていて,パブリッシュされないファイルドロワー論文もデータベース化しようぜ?という話題提供だったと思う。

ディスカッション時間は思惑通り,指定等論者やフロアから,様々な厳しいコメントがついた。オーディエンスはフラストレーションがたまるような仕掛けがなされていたらしい。

それぞれの指摘に対して発表者が回答するというスタイルは,横から見ていると(年代的な意味で)お兄ちゃんやお姉ちゃんがお父さんお母さんから叱られている,という感じだったので,若手は発言できなかったのがちょっと残念でした。

以下私見。

まず「社会心理学は科学だよね?科学は再現性がいるよね?」という所から話が始まるんだけど,果たしてどの程度の意味でそういっているのか。自然科学的になりたい?なれるの?そういうものなの?というところで既に問題があるのでは。

フロアからの指摘にあったけど,いい研究は追試されるし,悪い研究は追試されないわけで,何でも追試すればいいってもんじゃない。それはその通りだとおもう。そして,社会心理学という領域は自然科学の諸領域にくらべて,恐ろしく効率の悪い業界なのだと思う。追試したくなるほどのいい論文が出てきにくいんですよ。「巨人の肩に乗るのだ」というけど,この領域は無数の小人がいるだけで,どの小人が巨人に育つのかがわからない。

例えば学会主導的に,追試すべき論文を第三者が定めるような仕組みを作ったとする。そうすると,日本社会はいじめが大好きだから,嫌いな学者・学閥あいてに追試を吹っかけ,ほら再現できないだろうといって叩き潰し,誰かが涙の記者会見をする,という絵図がすぐに思いつく。

そうならないためにどうするか?例えばランダムに「検閲」が入って,追試するようにするとか?それは単に発表のスピードを遅らせることにしかならないよね。

どの論文を追試すべきか,再現性を求めるべきかという問題は,問題の設定ポイントがずれていて,追試をさせることを目標にしたって仕方ないんですよ。論文の重要性が定められないというのはすなわち,社会心理学会として「解くべき問題」が共有されてないから。ヒルベルトの23の問題みたいに,社会心理学者が共有できる問題を設定できれば,それに沿って自然と追試されて行くに違いない。

そういう,学会主導の重要性が提言できずに今に至っているということは,実は現状が最適な状態なのかもしれない。つまり,問題を特定できないから,みんな好き勝手にやりましょうよ,面白かったらいいじゃない,というそういう軽い科学集団。成長の見込みがない小人はどんどん淘汰されて行くけど,今はまず問題領域を眺め渡すために,罰を与えるより自由闊達な土壌を保持したい—それが社会心理学の面白いところなんじゃないかな。KSPもそういう風土,つまり「何もルールを決めないというルール」が生きている所だから楽しいのであって。

 

フロアからの質問やとりまとめ方が「Just do it」というのはまさにそうで,努力して今の状態なのよ,文句があるならそれもまとめてみんな好き勝手にしたらいいじゃない,という話だったかな,と思う。

あとは,科学を!科学を!という精神論でいくよりも、論文評価システムを変える方が、事態は動くとおもうな。心掛けより仕掛けでしょう。

残念ながら,時代とともに文化や技術が変わって行くので,100年たっても未だに新しい問題が出続ける。だから社会心理学の領域が閉じない。でも,何もしないわけじゃなくて,convergeよりdiverge,変と変を集めてもっと変にしましょう,というのが俺は好きだなあ。

 

さて。

午後は心理調査士の話。また資格かあ,とも思うし,心理学=臨床というイメージに対するカウンターパンチがまた出てきたのねという感じ。つくって儲けるのはいいけど,誰か使ってくれるかしら?まあカリキュラム的な意味でのハードルが低めなので,導入する所は多いと思う。いずれにせよ,資格問題は10年ぐらいしてからでないと効果測定できないからねえ。という感じで横目で見てました。

夕方は自分のポスター発表,意外と興味を持ってくれた人がいたのが嬉しかった。元教え子達にも絡むことができて,楽しかったですよ。

私も40を前にして,そろそろ自分の世界を作り上げて行くぞ(だから淘汰しないでねw)。